イノベーションとは何か

タイトル

イノベーションとは何か

〜イノベーションを生み出す社会の仕組みと夢に突き動かされた挑戦者たちの織りなしたロマンの数々〜

 

私とイノベーション

私は東レでほぼ一貫してイノベーションの現場にいた。このような経緯から、私はイノベーションに強い関心を抱くようになった。(株)東レ経営研究所の社長に就任した時、メーカー系のシンクタンクとして、製造業を中心とした日本の産業の発展に貢献できるような実践的な提言に繋がる調査研究に重点を置こうと考えた。これがイノベーションを総合的に研究するきっかけである。

その最初の実績が日本機械工業連合会から委託された「わが国機械工業の発展基盤に関する調査研究」である。これを皮切りに、日本の製造業の国際競争力を新たな視点からの分析調査を行い、イノベーベーションによって競争力を高めてきた状況を明らかにした。

こうした調査研究の実績が認められ、日本機械工業連合会からは連続して国際競争力やイノベーションに関する企業の取り組みやMOT(技術経営)に関連する調査研究を委託された。さらに、当時、イノベーション政策の展開を目指していた通商産業省(後の経済産業省)や科学技術庁(後の文部科学省)からはイノベーションのダイナミック・メカニズムやナショナル・イノベーション・システム、さらにはイノベーションの評価手法等に関して、とくに我が国の実態や問題点を明らかにする視点で調査研究を実施することになった。こうしてイノベーションに関する総合的な調査研究を、十数年にわたって継続することになった。

東レ経営研究所を退職し、地方の大学教員に転じてからは、地域で活躍する中小・中堅企業の経営に関心を持ち、文科省の科学研究費補助金を得て、「農村部と都市部の製造業の競争優位特性の比較」や「産学連携による地域企業のイノベーション」についての調査研究を行った。私はこの間に科学技術振興機構の「地域イノベーション創出総合支援事業」の中核として全国16か所に開設した「イノベーションプラザ・サテライト」の評価委員会の委員長に就任し、地域企業のイノベーションの実際を数多く見聞きすることもできた。

この一連の調査研究を通じて、イノベーションに当たる具体的な事例(ケース)をできるだけ多く調べた。さらに、関連のある統計データは極力集め、調査結果を数値化して多変量解析等の統計的分析を可能な限り適用した。こうした姿勢はメーカーが大事にする三現主義(現場、現実、現物)の現れである。

 

伝えたいこと

シュンぺータがイノベーションという経済的現象に着目してイノベーション理論を構築してから約100年。シュンぺータ以来、多くの研究者がイノベーションを研究してきて、イノベーションの全体像は分かってきている。しかし、知識社会への移行が進むにつれて、イノベーションは複雑化してきているように感じられる。それだからこそ、今までの研究成果を振り返っておく必要があるだろう。

イノベーションについては、日本ではアメリカで書かれたものの翻訳がよく読まれているが、日本人が書いたものはあまり多くはない。ほとんどが専門家向けで、イノベーションに関するこれまでの研究の全貌を紹介する総説的な解説は海外にも少ないようである。日本のイノベーションに焦点を当てたものも少ない。

私は前述したように、一連の調査研究を通じて、数多くの“イノベーション”の事例を観察してきた。クームズやSundboを始め多くの研究者が着目したように、イノベーションが起こる裏側には特有のメカニズムが存在する。しかし、実際のイノベーションの事例を見ていくと、人間の要素がはるかに大きいことに気付かされる。イノベーションの大小に拘わらず、そこには“夢”に突き動かされ、さまざまな困難にチャレンジした多くの人たちの“ロマン”に満ちた物語がある。その人たちは起業家だけではない。企業経営者も、組織の管理職も、研究者・技術者も、営業マンも、一介の実務担当も、さらには好奇心に満ちた生活者も含まれる。

実は、イノベーションの研究書でその論理の枠組みを裏付けるイノベーションの具体的事例を挙げながら解説したものは世の中にあまり多くはない。イノベーションに関わった人たちの思いと行動が活き活きと描かれない限り、イノベーションの本質は伝わらない。思いもかけない発想と大胆な冒険の蓄積が今日の私たちの生活を作ってきたのである。

単に経済・産業だけではなく、私たちの今の生活に深い係わりを持っている“イノベーション”のダイナミックなメカニズム(社会的な仕組み)を、その具体的な事例(夢と挑戦の物語)をできるだけ多く取り上げて、分かりやすく解説してみたい。そして、 “イノベーション”をできるだけ多くの人に正しく理解してもらい、できるだけ“イノベーション”に参加してもらいたいのである。それが本書の目的である。

 

目次

序章 イノベーションが人類の歴史を作った

イノベーションが人類の歴史を作った

・私たち人間だけが“文化的進化”を成し遂げてきた
・コミュニケーションの力がカギに
・文明史のキーワードは交換

1章 イノべーションとは何か

1.1 イノベーションという言葉

・「イノベーション」は経済の専門用語
・誤解を招いた「技術革新」という言葉
・儲かってはじめて「イノベーション」

1.2 シュンペータのイノベーション理論

・シュンペータ・・・多彩なキャリア
・資本主義の本質はなにか

1.3 起業家と資本家

・イノベーションの主役
・起業家は特異な存在
・資本家の役割

1.4 コンドラチェフの波

・イノベーションが起こす景気のサイクル
・現在は5回目の波の中
・資本主義は滅びるのか

2章 経済の発展と産業の興亡

2.1 産業革命の意味

・18世紀は人類史の一大転換期
・産業革命から経済成長は始まった
・資本市場の成立

2.2 近代科学の成立と技術の変質

・技術とはなにか
・ヨーロッパの技術文明と近代科学の誕生
・科学者という新しい職業
・経験的技術から科学的技術へ
・発明家の出現

2.3 技術の進歩と私たちの生活

・技術進歩の意味
・生産性と質の向上
・自然界の制約条件からの開放
・新しい財やサ-ビスの創出

2.4 産業の発展と興亡、そして産業覇権国の交替

・経済発展の5段階
・新しい産業の発展と誕生
・繊維産業の西進論
・成長市場を持つ国が覇権を握る
・産業の空洞化

2.5 経済成長とイノベーション

・技術進歩が経済成長の主たる要因
・生産関数
・全要素生産性TFPの向上は技術進歩の結果
・研究開発投資の利益率は
・日本の長期低迷はイノベーションの停滞から?

3章 企業にとってのイノベーション

3.1 企業の誕生と成長・発展

・大かたの会社はベンチャー企業から
・企業はなぜ成功、発展できるのか
・企業のイノベーション機能が研究開発部門
・生き残り戦略の違い

3.2 市場競争と企業の発展

・日本の機械工業の国際競争
・日本の機械工業は非価格競争力で勝った
・市場競争の3層構造
・競争力の構造と競争戦略

3.3 イノベーションの経営学

・ドラッカーのイノベーション経営学
・研究開発は企業業績に貢献するのか
・企業のドメインとイノベーションの相性
・多角化戦略の理論
・アプリケーション・イノベーションが最善

4章 国際競争力とイノベーション

4.1 長期の円高トレンドと貿易収支

・円高は40年間続いた
・円高でも輸出は増えた
・国際競争力とは何か
・「貿易の偏り係数」という指標

4.2 産業の高度化と国際競争力

・1985~1995年は日本の産業が試された10年間
・高度化ランクと貿易の偏り係数
・円高と高度化の綱引き構造

4.3 高度化戦略の実際

・高度化の中身はイノベーション
・技術開発で先行
・日本のやり方を世界市場に
・日本が得意とした市場高度化対応のイノベーション

4.4 国の能力

・日本の機械産業の発展を支えた国の基盤的条件
・ポーターのダイヤモンド構造とクラスター
・なぜ、海外に生産拠点は移るのか
・事業の市場競争力の構造

5章 イノベーションの様態と構造

5.1 イノベーションの研究とイノベーションの分類

・不況期にイノベーションが増えるのか?
・改良・改善もイノベーション
・生産性のジレンマ
・プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーション
・持続的イノベーションと破壊的イノベーション

5.2 イノベーションのキャラクタリゼーション

・市場とのつながり、技術とのつながり
・事例を特徴で分けて見ると
・イノベーションの分類体系

5.3 イノベーションの偏り

・ベンチャー企業はなぜ挑戦的なのか
・日本はプロダクト・イノベーションで欧米を凌いでいた

5.4 中小企業のイノベーション

・シュンペータ仮説…イノベーションの主役は大企業か?
・中小企業は多種多様
・地域イノベーション創出総合支援事業
・中小企業はベンチャー企業に近い

6章 イノベーションのダイナミック・プロセス

6.1 イノベーションのドライビング・フォース

・イノベーション理論のパラダイム・シフト
・テクノロジー・プッシュかデマンド・プルか
・クラインのイノベーション・プロセス
・デマンド・アーテキュレーション

6.2 社会に大きな影響を与えたイノベーションの実際

・市場創造型のイノベーション
・市場高度化対応型のイノベーション

6.3 イノベーションのダイナミック・プロセス

・イノベーションのダイナミック・プロセス・モデル
・発送のきっかけ、動機
・ビジョン…創造的活動のベクトル合わせ
・要素技術の開発、大学・公的研究機関の役割
・基本コンセプトの創造、要素技術の選択
・第1世代開発ターゲットの設定と開発
・マーケティングと経営
・抵抗と障害

6.4 イノベーションの波及・発展

・製品開発の世代交代
・技術のスピル・オーバー、フォロアーの出現と企業間競争
・イノベーションの波及と発展

7章 イノベーション・プラットフォームとイノベーション・システム

7.1 イノベーションに好意的な環境

・社会の条件
・クラスターの意義

7.2 ナショナル・イノベーション・システム(NIS)

・イノベーションのパフォーマンスはなぜ国によって違うのか
・ナショナル・イノベーション・システムの構造
・日本のナショナル・イノベーション・システムはどこが弱いのか

7.3 イノベーション政策

・科学技術立国の元祖はフランシス・ベーコン
・科学技術振興から産学連携へ
・イノベーションへの期待は大きくなった
・イノベーション政策の構造

7.4 企業の中でのイノベーション・システム

・イノベーション戦略のパターン
・MOTの意義
・研究開発のパフォーマンスを高める基本原則
・オープン・イノベーション…第4世代のR&D

8章 知識経済下の成長戦略の課題は

8.1 日本の問題

・オチコボレた日本経済
・日本の社会、何が問題なのか
・日本的やり方の可能性…科学技術振興機構の社会実験

8.2 第4の波

・知識経済
・「第3の波」か「第4の波」か
・経済成長は続くのか

8.3 日本的なイノベーションの道を求めて

・地域企業への期待
・日本的課題への挑戦
・知識社会にどう向き合うか

 

著書

原陽一郎 プロフィール

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