起業家と資本家

イノベーションの主役

昔の経済学部の学生は「経済発展の理論」を読まされたそうだ。ぜんぜん面白くなかったと多くの経済学徒は言う。しかし、私にとっては面白かった。経済学のテキストには人間が出てこないが、「経済発展の理論」では、起業家が経済発展の主役であって、その起業家という人間像が活き活きと描き出されている。具体的な人物は出てこないが、読んでいて身近な人を思い浮かべ、納得するのである。

シュンペータの言う「新結合の遂行」、つまり「イノベーション」を実際に実現する人が「起業家(アントゥルプルナー、原著では、Unternehmer)」である。シュンペータはフランスの経学者セイの言葉 “起業家とは資源をより生産性の高いところに移して利益を上げる者”を引用して起業家を説明する。「起業家」が「イノベーション」の唯一の主役なのです。

 

起業家は特異の存在

彼によれば、“起業家は抵抗に遭いながら古い結合から資源や力を奪わなければならない” “起業家の動機は三つ、自分の王国を建てようとする夢、勝利者意欲、創造の喜び”である。起業家とはどんな人物か、“新結合を遂行する場合のみ起業家であって、彼が一度創造した企業を単に循環的に経営していくようになると起業家としての性格を喪失する”。そして、“起業家の受け取る報酬が「創業者利潤」であって、経営管理者や技術者が受け取る報酬とは本質的に異なる”、“資本主義社会では、私有財産の大半は直接的、間接的にイノベ―ションの産物”だ。さらに“危険負担は起業家機能の一部ではない。危険を負担するのは資本家。起業家は資本家であるという範囲内で危険を負担するだけだ”とも言う。起業家にリスクを負わせない社会システムが不可欠なのである。

起業家は能力的に“創意、権威、先見の明で特徴付けられる特異な存在”であって、“知的才能が必要な発明家と異なり、発明をイノベーションに変える起業家は意志的な才能が必要”“起業家は特殊な類型として研究の対象となる”のである。

シュンペータの思想の継承者と目される経営学者ドラッカー(ドラッカーもオーストリア出身、シュンペータとは面識があったと考えられる)は、“起業家とは新しい価値を創造し資源から得られる利益を大幅に引き上げる者”であって、“起業家は職業とか地位とは関係ない、きわめて特殊な特性を有する何者かである、その特性こそが起業家精神である”と言う。

イノベーションにとって起業家の存在は不可欠である。起業家がいなければ、イノベーションは起こらない。経済の発展を目論むなら、起業家の育成が必要なのだ。これにアメリカは気付いた。アメリカのビジネス・スクールは元々経営者の育成を目的としていたが、狙いを起業家の育成に変えてしまったと言われる。今のアメリカのビジネス・スクール出身者が圧倒的に起業家指向だと聞いた土屋守章氏(故人、東大名誉教授、経営学)は“経営学者としての失敗はアメリカのビジネス・スクールが起業家の育成に重点を変えたことに気付かなかったことだ”と述懐した。

 

資本家の役割

資本主義経済の特徴は私有財産の公認、資本家の存在と自由な市場活動の保障にある。シュンペータによれば、資本家による起業家に対する信用の供与と投下資本のリスク負担がイノベーションにとっての不可欠の要素だとする。資本家もイノベーションに参加することによって、利潤を獲得する存在なのである。

起業家も資本家もその行動の動機は利潤の獲得、すなわち儲けに対する意欲である。そして、起業家が行おうとするイノベーションの危険を投資と言う形で負担するのが資本家である。この危険負担に対する報酬として、イノベーションが成功し「創業者利潤」を生み出したときに、投資家は投資に対する配当として、その「創業者利潤」の分け前を受け取るのである。賢明な資本家は、新しい市場を創造する可能性の高い筋の良いイノベーションの試みに投資することで所有する資本を増やすことができるのである。

【目次】イノベーションとは何か

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