イノベーションの研究とイノベーションの分類

不況期にイノベーションが増えるのか?

社会的現象を研究対象とするとき、分類から始めるのが常道である。イノベーションの研究も同じ。最初の分類の例はシュンペータの5つのタイプ分け、「製品」「販路」「製法」「原材料」「組織」だが、これは研究のための分類ではなく、イノベーションの具体的なイメージを示そうとしたものだった。

イノベーションの初期の頃の研究は、シュンペータ理論、とくに長期循環とイノベーションとの関係を検証しようとするもの、本当にイノベーションが不況期に活発化するのかということであった。このために、研究の目的に対応した分類が必要になった。イノベーションを社会や産業に与える影響の大きさで分けて、時系列的に発生頻度を調べる試みが行われた。C.フリーマン、G.メンシュ、A.クラインクネヒトの分類も対比して示した。

図表5-1-1 社会に対する影響の大きさによるイノベーションの分類

C.フリーマンG.メンシュA.クラインクネヒト

説明

テクノロジカル・レボリューション創造的破壊に相当するもの

ex.蒸気機関、電気通信技術など

ベーシック・イノベーションベーシック・イノベーション
ラジカル・イノベーション非連続的に起こるもの

ex.ナイロン、テレビなど

ラジカアリー・ニュー・プロダクツ
インクリメンタル・イノベーション連続的に発生するものインプルーブメント・イノベーションインプルーブメント

サイエンティフィック・インスツルメント

ノベーションが大規模に引き起こされることを見出した。つまり、経済発展のきっかけはテクノロジカル・イノベーション(創造的破壊をもたらすような画期的なもの)ということになる。

G.メンシュは景気停滞期には、インプルーブメントよりもベーシック・イノベーションの出現頻度が高いと言い、A.クラインクネヒトも、1900年以降、5年刻みでイノベーションの件数を調べて、不況期にベーシック・イノベーションとラジカリー・ニュー・プロダクツの開発件数が増えると述べている。

こうした研究によって、イノベーションと景気の動きにはシュンペータ理論のとおりの関係があることが一応は認められている。それでは、現在、先進経済諸国が直面している成長率の鈍化がイノベーションの停滞によるものなのか、これについては検証されていない。

 

改良・改善もイノベーション

イノベーションの分類で注意すべきことは、いずれもインプルーブメント(改良・改善)をイノベーションの中に含めていること。日本では、イノベーションというと画期的なものというイメージがあるが、これは正しくない。

シュンペータは最初、“馬車に馬車をいくら加えても鉄道にはならない”という有名は比喩で、イノベーションを非連続的な事象を考えたようだが、後に“生産関数の形が変われば、そこにイノベーションがあったと見なされる”と書き、漸進的な改良・改善の効果もイノベーションに含めた。

後に挙げるW.アバナシーは、改良・改善型のプロセス・イノベーションは劇的な効果には欠けるが、その経済的な効果は決して低くはないと述べている。

 

生産性のジレンマ…イノベーションは収束する

よく使われる「プロダクト・イノベーション」と「プロセス・イノベーション」という分類はW.アバナシーから始まったと思われる。シュンペータのイノベーションのケースでは、製品と販路がプロダクト・イノベーションに、製法と原材料がプロセス・イノベーションに対応する。アバナシーは自動車産業などの研究から産業の発展過程でイノベーションのタイプが異なることを見出した。〔W.Abernathy『The Productivity Dilemma』〕

新しい産業が興隆する第1段階で、製品の「デザイン・コンセプト」が創出される。これをアーキテクチュアル・イノベーションと呼ぶ。自動車の場合は、蒸気機関、電気モータとの競合から抜け出してガソリン・エンジンが「デザイン・コンセプト」となった。「デザイン・コンセプト」が固まると、「ドミナント・デザイン」が確立し、それに必要な要素技術が選択され、体系化される。これを「デザイン・ハイアラキー」と言う。T型フォードの完成がドミナント・デザインである。こうしたデミナント・デザインの確立が「プロダクト・イノベーション」である。

第2段階になると、デザイン・ハイアラキーの革新、つまり製品や製造工程の改良・改善に移る。生産性と品質の向上が重要な課題で、「プロセス・イノベーション」の時代。これは劇的効果には欠けるが、電球の価格が45年間で1/8に下がったことを挙げて累積の効果はバカにならないと彼は言っている。

第3段階は新しいマーケットにすでに確立している製品をより普及拡大させるためのマーケッターのイノベーションが起こる。ドミナント・デザインは“農民用の馬車”のようなT型フォードから“走るラウンジ”へと変わっていく。多様な顧客のニーズに対応する新製品開発が活発に行われる。

そして、生産性を犠牲にするようなデザイン・コンセプトやデザイン・ハイアラキーを大きく変えるようなイノベーションは、その産業の中からは生じ難くなると最初は考えた。これをアバナシーは“生産性のジレンマ”と呼んだ。彼はどの産業もやがて成熟し飽和に達し、ここでイノベーションは停滞し、企業間の競争関係を固定化させると考えた。

しかし、ビッグ3体制が確立したアメリカ市場で後発の日本のメーカーの車がシェアを激しく奪い始めた。これを見て、アバナシーは説を変えることになった。第3段階に続く第4段階で、生産システムを大きく変革するレボリューショナル・イノベーションが起こり、既存のデザイン・ハイアラキーを破壊し、既存の製品の競争条件を根本から変えてしまうことが、ときとしては起こるとした〔アバナシー『インダストリアル・ルネッサンス』〕。彼はその例としてコンピューターIBM360シリーズを挙げている。

 

プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーション

アバナシーの研究を踏襲したJ・アターバックは、イノベーションの発展過程、流動期、移行期、固定期に対応して、プロダクト・イノベーションとプロセス・イノベーションの性格が変化することを詳しく分析した。そして、彼は大企業のイノベーションは漸進的なのに対して、新規参入企業は既存の供給業者とのしがらみがないから革新的の傾向があることを指摘している。〔J・アタ―バック『イノベーション・ダイナミックス』

プロダクト・イノベーションは既存の「ドミナント・デザイン」とは異なる新製品を開発して市場に受け入れさせることである。プロセス・イノベーションは同じ「ドミナント・デザイン」で製造法を変えることで、その目的は質と生産性の向上を図ることである。

 

持続的イノベーションと破壊的イノベーション

C・クリステンセン(ハーバード大学教授)の著書『イノベーションのジレンマ』は、日本ではイノベーションの議論の中でよく取り上げられた。クリステンセンは、イノベーションを持続的技術によるものと、破壊的技術によるものに分けて、その展開の様相が異なることを示した。そして、一度、イノベーションで成功した大企業がその後の競争に負けるのは、破壊的技術への対応が困難だからだと言った。

持続的とは、製品の性能を高める方向のもので、既存の企業はこの方向でのイノベーションを得意とする。破壊的技術とは、低性能だが、低価格、単純、小型、使い勝手の良さで、限られたニッチ市場での評価を掴むもの。

破壊的技術による製品が性能を高めていくと、時として、そのニッチ製品が既存の主流製品の地位を危うくする事態が起こる。これを「破壊的イノベーション」と呼んだ。その典型的な事例がメインフレームに対するパソコンだと考えられるのだが、クリステンセンは挙げていない。パソコンは今でも、大型コンピュータ、メインフレームに比べて性能は圧倒的に低いが、小型で低価格で誰でもが手軽に使いこなすことができる。このパソコンがコンピュータの市場にダウンサイジングをもたらして、大型コンピュータ・メーカーを脅かした。

この「破壊的イノベーション」は小規模なニッチ市場から生まれるから、ベンチャー企業や新規参入企業が主役となる場合が多いと見られている。

【目次】イノベーションとは何か

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