日本的なイノベーションの道を求めて

日本の経済再生のキーワードはイノベーションである。イノベーションを活性化するために、日本は何を考えるべきか。この本に集約した知見からどう考えるべきか。

地域企業への期待

日本が得意としてきた「産業高度化対応のイノベーション」は大企業が中心であった。これから求められるのは「市場創造型のイノベーション」だが、これは既存の企業には向いていない。ベンチャー企業の活躍に期待する以外にはない。私たちの調査では、中小企業もベンチャー企業とイノベーションの方向は同じ市場創造型である。社会の高度化は自己実現指向の人たちを増やしてきていると考えれれる。それがニッチ市場全体の規模を大きく広げている。地域の中小企業はそのようなニーズに敏感だし、ビジネスに取り込むチャンスを狙っている。日本はこれに目をつけるべきなのである。

ベンチャー企業、中小企業に対しては、社会的なイノベーション・プラットフォームの充実と一定の制度的、政策的支援が必要である。科学技術振興機構が行った「地域イノベーション創出総合支援事業」は重要なヒントを与えてくれている。

その一つが地域企業に着目したこと。実際に採択された開発課題の多くはその地域固有のニーズに基づいていて、市場も極めて小さい。大手企業が絶対に取り上げないタイプのもの。しかし、マーケティングのやり方によっては、海外も含めてグローバル・ニッチとして市場を切り開く可能性のあるものも少なくない。実際の成功事例(5.4参照)から地域企業の市場創造型イノベーションが成熟・飽和した市場に活力を与える可能性を十分に感じさせる。

日本には、各地に地場産業の伝統があり、高い技術を持っている地域企業も多いし、公設試験機関もノウハウを蓄積している。地域企業もいろいろな理由でイノベーションへの意識は持っている。しかし、個々の企業にはそれに挑戦するだけのポテンシャル(マネジメント力、マーケティング力、技術、資金、専門人材など)が弱い。それを補い、勇気づけ、さらに、事業として大きく成功させることで地域企業の力は引き出される。地域企業が伸びれば、地域の雇用は増え、地域再生に直接、結び付く。経済の再生にもなる。

「地域企業」のイノベーションを支援する政策のポイントは次のとおりである。

・産や学から中立のイノベーション支援機関を設け、各地域に拠点を置く
・支援機関は個別の開発課題を評価・選定し、これに開発資金を支援する
・各地域の拠点にはコーディネータの配置し、自由に活動できる権限を与える
・事業化された成果の拡大を支援する制度的な仕組み(事業提携、マーケティング支援、輸出支援など)を設ける

 

日本的課題への挑戦

未来の日本にとって今、解決しておくべき社会的課題は多い。少子高齢化と人口減少社会への対応、エネルギー・食糧の自給率の向上、安心・安全の確保、IT化への社会的な対応などは総合的な取り組みが必要である。

アメリカは、このような国家的課題に対して、国としての具体的なビジョンを国民に示して、学・産の研究開発の方向付けをし、開発成果を優先的に国のプロジェクトに採用して事業化を支援した。宇宙開発、集積回路、インターネットはその代表的な例。また、アメリカは、連邦や州政府が公的な調達を戦略的に活用していると思われる。EUのイノベーション政策のガイドラインでも、戦略的調達による公的需要の創出の必要性を挙げている。

これに対して、日本では、国家的課題に対するビジョンが学と産を強く引っ張る力があるのか。各省庁の政策との整合性に欠けていて、迫力が弱いと見られている。公的調達についても、補助金による初期の需要の支援はときどき見られるが、国や自治体が新製品を積極的に買おうとはしない。

イノベーションを喚起することで、国の重要な課題の解決と経済の再生の両方を実現することはイノベーションの原理から可能である。そのための国としての制度、政策はどうあるべきなのか。

 

知識社会にどう向き合うか

「知識社会」でのイノベーションの在り方は「工業社会」とは、異なるものとなると見られている。それがどのようなものであるか、また、新しい時代のイノベーションを支える社会はどうアあるべきか。これらに応えることは、私たちばかりでなく、イノベーションの研究者の誰もが、今はできないでいるのではないか。

これはこれからの大事な研究課題である。まず、「知識経済」の下でのビジネスの様態をよく知らなければならない。

【目次】イノベーションとは何か

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