シュンペータのイノベーション理論

シュンペータ・・・多彩なキャリア

ヨゼフ・アイロフ・シュンペータは、1883年、オーストリアで生まれた経済学者。彼の経歴は多彩である。ウイーン大学で学び、グロ-ツ大学の教授になった。学才を見込まれて第1次世界大戦で敗北したオーストリアの大蔵大臣に就任(1919年)、続いて銀行の頭取にもなったが、はかばかしい業績は残していない。再びボン大学で教職につき、ハーバード大学からの招きでアメリカに渡った(1932年)。晩年、アメリカ経済学会の会長、国際経済学会の初代会長も務めている程だから、その学問的業績は相当なものであった。

彼はその実業経歴の割には実体経済の中での経済学の実用的側面には背を向けていた。20世紀を代表する2人の経済学者の1人として、ケインズと並んで高く評価されていながら、経済学界では人気が薄い。

彼の関心は資本主義経済の本質を解き明かすことにあった。“静態的な封建経済、静態的な社会主義はあり得ても、静態的な資本主義は形容矛盾である”と、資本主義がダイナミックなシステムが特徴だと考えた。そのダイナミズムの源泉が「イノベーション」。彼はケインズ流の経済政策は資本主義の本質をゆがめるものとあからさまに批判していた。

彼のイノベーション理論は資本主義の本質を論理的に説明しようとするものであった。それが『経済発展の理論』(1912年初版、邦訳は岩波文庫)に集約されている。

 

資本主義の本質はなにか

彼は生産手段の「新結合の遂行」が経済を活性化させ、新しい成長のうねりを作り出すと考えた。「新結合の遂行」が「イノベーション」である。景気の停滞期には、新たな利潤を求めて新結合の遂行に挑戦しようとする起業家が現れる。新結合は古い結合に直ちに代わることはできない、新結合を作り出すためには古い結合から必要な生産手段を奪い取ってこなければならない。このために金融市場があり、起業家に対して信用供与が行われ、「新結合の遂行」に不可欠な購買力が与えられる。こうして、需要は増加する。

資本家および金融市場による「信用の供与」や創業者利潤の獲得は資本主義経済固有の機能であって、これがあるために「起業家」は経済的な野心を抱き、経済は躍動するのである。

起業家の大きな成功はそれに続く企業家の群生を生む。これによって経済成長のうねりが生ずる。一方で起業家の群生は創業者利潤を減少させることになり、起業活動は活気を失い、経済は停滞に向かう。このようにして、長期的な景気の循環が起こるのだ。

少々乱暴だが、フローチャート的に描いてみたのが図表1-2-1である。

図表1-2-1 イノーション理論の構造
(作成:原 陽一郎、原、安倍「イノベーションと技術経営」(丸善))

 

シュンペータは「新結合の遂行(イノベーション)」を具体的に説明するために、5つの場合を挙げている。

「財貨」… 新しい財貨、消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産。

「生産方法」… 新しい生産の方法、当該産業部門で実際上未知の生産方法の導入、科学的に新しい発見に基づく必要はなく、また、商品の商業的取り扱いに関する新しい方法も含む。

「販路・市場」… 新しい販路の開拓、当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓、市場が既存のものであるかどうかは問わない。

「供給源」… 原料あるいは半製品の新しい供給源の開拓、この供給源が既存のものか、新しく作り出されたものかは問わない。

「組織」… 新しい組織の実現、すなわち独占的地位(たとえばトラスト)の形成、あるいは独占の打破。

 

シュンペータの主要な著書は『経済発展の理論』『景気循環論』『資本主義・社会主義・民主主義』の3つである。その中で「イノベーション」について、いろいろな説明をしている。代表的なものを羅列してみた。

馬車に馬車をいくら加えても鉄道にはならない

(経済発展の理論)

“生産関数の形が変われば、イノベーションがあったと見なされる”。

“イノベーションはリカードの収穫逓減の法則の作用を中断させ、新しい成長曲線に置き換えることを意味する”

“イノベーションと発明は同義語ではない、イノベーションにとって学問的新規性などどうでも良いこと”

(景気循環論)

“常に古いものを破壊し、新しいものを創造し、絶えず内部から経済構造を革命化する突然変異の課程、この「創造的破壊」こそが資本主義の本質的事実”

“静学的な資源配分の観点では、完全競争市場における原子的な企業(多数の小企業)が望ましいが、動学的観点では、集中の進んだ市場における大企業がイノベーション、すなわち経済発展のエンジンとなる”

“企業を永続的に発展させていくためには、自らがイノベーションを行う起業家の集団であり続けなければならない。これが資本主義的企業の宿命である”

(資本主義・社会主義・民主主義)

 

【目次】イノベーションとは何か

電子書籍の出版に興味がある方へ

「JOURNAL & BOOKS」では、電子書籍の制作・出版をサポートしています。

詳細につきましては、下記のサービスメニューをご確認ください。